1. Introduction

PRADAの2026年秋冬メンズで気になったのは、コートの袖口と胸元だった。

細身の長いコートに、内側の服が少しだけ見えている。その色や柄、布の出方がいい。コート全体を見ているつもりでも、いつの間にか手元に目が戻っている。自分でもやってみたい。ただ、似たように重ねれば同じ雰囲気になるかというと、そこは難しそうだ。

今回のコレクションは、すべてが僕の好みに近いわけではなかった。肩を覆う鮮やかな服には戸惑ったし、レザーのコートには、なぜこの形をその素材で作るのだろう、という疑問も残った。それでも、普段の自分の服に取り入れたくなる部分がある。好きなものと分からないものを見比べているうちに、このショーが気になってきた。

2. インスピレーション・会場と音楽

2026年1月18日、ミラノで発表された今季を手がけたのは、Miuccia PradaとRaf Simonsだ。二人は2020年から、クリエイティブ面の責任と意思決定を対等に担う共同体制でPRADAを率いている。今回も、個々の服をどちらか一人の作風に割り振るより、二人の対話から生まれた提案として見たい。発表日:Vogue/共同体制について:PRADA公式

ショーのタイトルは「BEFORE AND NEXT」。公式の説明で示されているのは、過去を消さずに、その蓄積から新しいものを作るという考え方だ。長く着られてきた服の形や、使われた痕跡を受け止めながら、次の着方を考える。その関心が、服の表面にも内側にも現れている。コレクションの背景:PRADA公式

会場となったFondazione PradaのDepositoには、古い建物を断面にしたような空間が作られた。淡い色の壁、扉、暖炉。上の階にあったはずの部屋が見えているのに、そこへ立つための床は途切れている。Wallpaper*によれば、OMAが手がけた、イタリアの邸宅の内部を露出させるような構成だった。会場について:Wallpaper*

その写真を見てから服へ戻ると、袖口から出る布や、表面の下に現れる模様も少し違って見える。普段なら外側に隠されるものが、人の目に触れるところへ出てくる。会場と服の間に、そうした関係を読むことができると思う。

音楽にも目を向けたい。Men’s Folioが今季のショーの使用曲として取り上げているのは、Suicideの「Ghost Rider」と、Virgin Prunesの「Theme for Thought」だ。同誌はPRADAの選曲について、終末を思わせるムードを持ちながら、モデルの歩みに勢いを与えるものと評している。使用曲と音楽評:Men’s Folio

「Theme for Thought」の背景には、今季を考える手がかりがもう一つある。Virgin Prunesの公式サイトによれば、この曲にはOscar Wildeの詩「The Ballad of Reading Gaol」が引用されている。曲そのものが、それ以前の作品を取り込んで作られているのだ。楽曲の背景:Virgin Prunes公式

詩の言葉が音楽の一部になり、その音楽が新しい服の発表に用いられる。このつながりから、僕は「BEFORE AND NEXT」というタイトルをあらためて考えた。過去の表現は、別の時代のものと組み合わされることで、もう一度違った役割を持つ。コートの表面から別の柄が現れることや、異なる図柄を重ねることと、音楽の選び方を並べて読む余地がある。

これは選曲意図を確認した説明ではなく、曲の背景を踏まえた僕なりの解釈だ。それでも、会場、服、音楽のそれぞれに以前からあるものが持ち込まれていると考えると、今季の細身のコートも、懐かしい形をそのまま戻したものとは違って見えてくる。

3. 具体的なLOOK

まず、コートの細さが印象に残った。

小さなラペルの濃紺のダブルコートに濃色のパンツを合わせ、胸元と袖口から白地のストライプのインナーを見せた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 1. Source: PRADA official website

序盤のLook 1から3では、長いダブルブレストのコートが続く。肩を大きく外へ張り出させず、身頃は身体の近くを通り、裾へ縦に伸びていく。写真の中で、身体がどのあたりにあるのかを想像しやすい形だ。胸から腰へ向かう線があり、ポケットに手を入れたときの腕の曲がり方も見える。

下のパンツには、膝や足首の周囲に布の余裕が残っている。全身のすべてをぴったり細くしているわけではない。コートの胴まわりと袖が収まり、その下でパンツが少し動く。その配分によって、縦長の印象ができている。

ラペルも小さく感じた。長いコートに対して、胸元の折り返しが控えめだ。僕はここを見ながら、これだけミニマルにするなら、シングルの方が好みかもしれないと思った。

小さなラペルのグレーのシングルコートに黒いパンツを合わせ、胸元と袖口から黒のインナーを見せた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 8. Source: PRADA official website

Look 7や8のようなシングルでは、前の線をそのまま下へ追いやすい。ラペルの面積を抑えたことが、長く続く身頃の見え方につながっている。自分がすっきりしたコートを選ぶなら、こちらを試してみたくなる。

一方で、序盤のダブルには前身頃の重なりと二列のボタンが残る。身体に近い細さでも、胸と腹の前にもう一枚の面がある。その量感が、コートに少し構えを与えているように見えた。ラペルまで大きくすると胸元の存在感はさらに強くなるはずで、ここを抑える判断には意味があると思う。小さなラペルだからシングルが正解、とまでは言えない。縦の線を素直に見たいか、前の重なりも楽しみたいか。その違いとして見ると、両方の形が分かりやすくなる。

その整った輪郭から、インナーが顔を出す。

細身のネイビーのダブルコートにグレーのパンツを合わせ、袖口からストライプのカフスを大きく出した装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 2. Source: PRADA official website

Look 2では、細い袖の先からストライプのカフスが大きく開いている。Look 3でも、手元の明るい布がグレーのコートの横に見える。胸元の開きから見える布は少ないのに、手元ではその存在をはっきり感じる。外から見える範囲が限られている分、色も柄もよく目に入る。

僕が惹かれたのは、この少し収まりきっていない感じだった。コートだけなら端正にまとまりそうなところで、袖口に別の動きがある。胸元はすっきりしているのに、手元には布が余る。その差が、服を着ている人の雰囲気を少し変えている。

実際、今季にはシャツの作りを組み替える発想がある。Raf Simonsはショー後、シャツのストライプの向きや襟元を変えることで、見慣れた服の印象を更新することについて話している。Tシャツのような首元とシャツのカフスが同居する見え方も、その文脈で受け止められる。シャツの再構成について:Wallpaper*

だから、普通のシャツを長めに出すだけでは、同じようにはならないのだと思う。首元にどれだけ布が見えるか、袖口がどのくらい開くか、コートの袖がどこで終わるか。少なくとも写真を見る限り、その組み合わせまで作られている。

自分が試すなら、まずは落ち着いた色のコートに、少し表情のあるインナーを入れたい。胸元と袖口の両方を一度に再現しようとすると難しそうなので、最初は手元に見える布の色や柄から考える。普段のコートを着ながら、インナーの選び方を変えてみる。そのくらいの入口なら想像できる。

Look 9から12では、その内側への関心がいったん肩の外側へ移る。

濃紺のベルト付きコートに、肩と胸を覆うターコイズ色の短いケープ状の上着と、同色の帽子を合わせた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 10. Source: PRADA official website

長いコートの上に、肩と胸を覆う短い服が重なっている。胸ポケットやファスナーを備えた上着を、途中で切り取ったような形だ。Look 9は濃色同士でまとまっているが、Look 10になると、肩の部分と帽子が鮮やかなターコイズに変わる。続くLook 11は紫がかったピンク、Look 12は明るい黄色。長いコートの上半身を、色のある短い面が横切る。

このあたりは、かなり癖が強いと感じた。ただ、Look 9の肩を覆う服と、その下のコートをどちらも黒にしたら、自分でも着てみたい。二つの服の境目が色ではっきり分かれなくても、肩の厚みや短い裾の線は残る。同じ黒の中で形の違いが見えるなら、僕の普段の服にも近づけられそうだ。

Look 10の配色をそのまま着こなす人にも惹かれる。顔の近くにあれだけ明るい色があって、それが帽子まで続く。自分なら黒に寄せたくなるところを、その色のまま引き受けている姿には、服を楽しむ幅の広さを感じる。

僕にとっては、黒で試したいLook 9と、配色ごと着られる人を見てみたいLook 10が隣り合っているのが面白い。形には興味がある。色まで含めると、まだ少し距離がある。その距離を具体的に考えられる服だった。

色の取り入れ方として、もっと身近に感じたのはLook 13、15、16だ。

Look 13では、濃紺の長いコートの内側に緑が見える。Look 15は、濃色のコートに赤。どちらも、外側の服が広い面積を占めていて、その中央に鮮やかな色が入る。普段、黒や濃い色を着ることが多い自分にも、この組み合わせは想像しやすい。

濃色のロングコートの前を開けて鮮やかな赤いニットを見せ、袖口から白いカフスを出した装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 15. Source: PRADA official website

ただ、二つのルックでは首元の開き方が違う。Look 13の緑は深く開いた胸元の下にあり、肌の見える範囲が広い。Look 15の赤はもっと上まで続く。色だけを同じにしても、胸元の印象は変わる。僕がまず取り入れるなら、赤のニットを濃色のコートに入れるLook 15の考え方が近そうだ。

Look 16の黄色は、コートに挟まれた細い差し色よりも、さらに面積が大きい。黄色いニットが上半身に広がり、下には濃色のパンツが続く。ここまで色を見せることもできるし、コートを重ねて見える範囲を減らすこともできる。色を一つ選び、その面積を調整するだけでも、自分の着方へ近づけられそうだ。

この三つを見ると、鮮やかな色を使うために、全身を大きく変える必要はないと思えてくる。いま着ている濃色のアウターを土台にして、その内側を変える。袖口への興味と同じように、今季のPRADAには、外側を保ったまま試せる部分がある。

その一方で、Look 31と32のレザーのコートには、まだ少し疑問が残っている。

光沢のある濃色のダブルのレザーコートに、紫のニットと緑のストライプのカフス、グレーのパンツを合わせた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 31. Source: PRADA official website

細い身頃、小さなラペル、長い着丈。序盤から続く形が、艶のあるレザーで現れる。確かに、素材が変わることで見え方は大きく変わっていた。胸や腰に光が走り、腕を曲げたところに深い陰影ができる。Look 31では、その光沢の近くに紫のニットと緑のストライプが見える。形の情報量を抑えた分、素材の反射や内側の色が前へ出ているようにも見える。

それでも僕は、このミニマルさをレザーでやることに、すぐには惹かれなかった。コートの形をすっきり見るなら、布の表情の方が自分には馴染む気がする。レザーの強い艶が加わることで生まれる緊張感は分かるが、それを着たいと思うところまでは届かなかった。

ミニマルな形とレザーが矛盾する、というわけではない。むしろ、形が簡潔だからこそ革の表情を見せられるのだろう。ただ、その組み合わせの良さを説明できることと、自分が魅力を感じることには少し間がある。今回は、その間を残したまま見ている。

Look 18のブラウンのレザーコートは、それとはまた異なる表情だった。表面には細かい皺や色の揺れがあり、長く使われた服を思わせる。こちらを見ると、レザーという素材の選択が、今季の時間や記憶への関心とつながって見える。同じ素材でも、どのような表面を作るかによって、受け取り方は変わってくる。

時間の痕跡という点で、強く目に留まったのはLook 37だ。

襟や前端、裾の擦れたような部分から千鳥格子が見える濃紺のコートに、赤いインナーを合わせた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 37. Source: PRADA official website

濃色のコートの襟や前の端が擦れたように見え、その下から細かな千鳥格子が現れている。近づいて見ると、単に色が落ちたような表情以上のことが起きていた。無地だと思っていた服の内側に、別の柄がある。Vogueのレビューでも、この一群の服について、表面が崩れたような部分から千鳥格子が見える作りが指摘されている。素材の表現について:Vogue

襟先や前端は、もともと服の輪郭を目で追う場所だ。その線がところどころ途切れ、下の模様に置き換わる。使い込まれたような印象を受けながら、同時に、服がどんな層でできているのかも気になる。会場の壁や床の断面を思い出したのは、このコートを見たときだった。

自分が着るかと聞かれれば、今は選ばないと思う。それでも、写真をもう一度見たくなる。見慣れたコートの形に、表面の違いだけでこれだけ目を引くところを作れるのは面白い。今季を振り返るときにも、記憶に残りそうな一着だ。

そこから自分の服へ考えを戻してくれたのが、Look 46だった。

オリーブ色のロングコートに、赤い花と青白い図柄を組み合わせた丸首のプリントトップ、濃いグレーのパンツを合わせた装い。
PRADA Fall/Winter 2026 Menswear, Look 46. Source: PRADA official website

オリーブがかったコートの中に、Tシャツのような丸首のプリントトップが見える。赤やオレンジの花と、青白い別の図柄が重なっている。両手のあたりには淡い色のカフスがあり、パンツは濃色。全身で見ると、花の色はコートの内側の限られた範囲に集まっている。

この入れ方はかなり好きだ。花のモチーフに惹かれるのと同時に、プリントが少し見切れていることにも惹かれる。コートを羽織ることで、柄の全体が一度に見えない。目に入る色と形が、前の開き方によって変わる。

ただ、こういう着方にちょうどいいTシャツやトップスは、探すと意外に見つからない。花柄であれば何でも同じようになるわけではなさそうだ。絵の大きさ、どの高さに置かれているか、背景の色、首元の開き。そのいくつかが違うだけで、コートを着たときに見えるものが変わってしまう。

Look 46で気になるのは、コートの開きの中に花の色が残り、その下には別の図柄も見えることだ。プリントの位置が低ければ、前を閉じたときにほとんど隠れてしまうだろう。細かい総柄なら、もっと均一な模様として見えるかもしれない。このルックには、コートの内側に一部分だけ置かれた絵を見るような楽しさがある。

自分で探すときにも、トップス単体の写真だけでは決めにくいと思う。手持ちのコートを重ねたところで、どの色がどれくらい見えるかを確かめたい。今季の服を見ながら、買うアイテムそのものだけでなく、試着するときの見方まで考えていた。

4. トレンドの牽引者としてのPRADA

コレクション全体を振り返ると、PRADAは今季、細身のシルエットを考えるうえで、かなり気になる存在だった。Vogue Businessも、2026年秋冬のミラノで見られた細身への動きの中で、PRADAのスーツやアウターを挙げている。その意味で、細さを打ち出しているという印象は、自分だけのものではなさそうだ。シーズン全体の傾向:Vogue Business

GUCCIの2026年秋冬にも、身体に沿うトップスやジーンズがある。ただ、Vogueのレビューが描くGUCCIでは、身体そのものを強調する着方が目立つ。PRADAを見て僕が気になったのは、コートと身体の間隔、袖口の布、前を開いたときに見えるものだった。同じ細さでも、そこから何を見せようとしているかは違って感じられる。GUCCIとの比較の参照:Vogue

どちらの注目度が高いかを、ここで決めることはできない。ただ、僕がいま細身の服について考えるとき、PRADAのコートを一つの基準にしたくなるのは確かだ。細い形の中に、色や柄を入れる場所が具体的に見えるからだと思う。

5. 最後に

Miuccia PradaとRaf Simonsの今季の仕事で面白かったのは、見慣れたコートやシャツに、見直したくなる箇所をいくつも作っていたことだ。ラペルの大きさ、カフスの開き、肩に重なる短い服、表面の下から現れる模様。どれも身体の周囲の小さな違いなのに、それを含めた全身の印象は変わっている。

そのすべてに納得したわけではないし、自分が着たいと思う範囲も限られている。けれど、ショーを見たあとに、普段のコートの内側へ何を入れようかと考え始めた。赤いニットでも、花の絵があるトップスでもいい。袖口には、もう少し色や柄が見えてもいいのかもしれない。

あのレザーコートの良さは、まだ考えている。それでも、次にコートを着るときには、胸元と手元を少し気にしてみたい。

6. 関連リンク

2026AWメンズのシルエット解説