1. Introduction
Dries Van Notenの2026AWは、最初のLOOKからかなり好きだった。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 1. Source: Dries Van Noten official website
紺色の長いコート。肩から腰へ向かって細くなり、そこから裾へと開いていく輪郭。曲線に沿って並ぶボタンと、胸元に残された開き。顔の近くには鮮やかな柄の襟があり、小さなブローチが添えられている。見たいところがいくつもあるのに、全身としてもきれいに目に入ってくる。
Dries Van Notenというと、色や柄の魅力を先に語りたくなる。実際、今回もその楽しさは十分にあった。ただ、僕がこのルックで何度も見返したのは、肩、腰、裾のつながりだった。柄の襟に惹かれて写真を開き、その下にあるコートの形を見続けてしまう。こういう入り方をするコレクションは、細部まで見るのが楽しい。
2. 会場と音楽
コレクションが発表されたのは2026年1月22日。Julian Klausnerによる2回目のメンズコレクションで、ショーはパリ14区で行われた。HEROは会場を7階建ての産業用建築と伝えている。開催日:WWDJAPAN、会場のエリア:Wallpaper*、会場について:HERO
ランウェイ写真を見ると、明るい灰色の床が奥へ伸び、その両側に客席が沈んでいる。背景の色数が少ないので、コートの濃紺も、ピンクのパンツも、柄の中にある細かな緑や青も読み取りやすい。壁や床の質感には素っ気なさがあり、そこを通る服には、刺繍や編み柄の細かさがある。その差が、服の表面を見る目を自然に近づけてくれる。
モデルの後ろには、次の人物や、歩き去る人物の背中が写り込んでいる。同じ柄が別の面積で現れたり、前からは見えなかった肩覆いの形が背中側から見えたりする。僕には、この往復する人物の重なりも印象に残った。一枚の服だけを眺めるときより、いくつもの装いが同じ場所に集まる風景として感じられる。
来場者の記録にはJeff GoldblumやArtie 5iveの名前もある。ただしランウェイ写真の客席は暗く、個々の装いを十分に読み取れるわけではない。写真から僕が受け取るのは、通路の近くまで人が並び、その中央を色や柄が通り過ぎていく、服との距離が近い空間だ。来場者:WWD
その空間に合わせられた音楽が、浅川マキの「夜が明けたら」だった。FASHIONSNAPによると、Klausnerは2025年10月の日本への旅でこの曲に出会い、歌詞の意味を知る前に歌声に惹かれたという。後から翻訳を通して知った出発のイメージが、コレクションの着想と重なった。選曲の経緯:FASHIONSNAP
3. インスピレーション
ここで、今季の背景が見えてくる。公式に語られているのは、大人になっていく過程と、新しい生活を始める喜びだ。前回のメンズコレクションでは、卒業を祝う若者たちが夜明けの浜辺にいた。その約半年後にあたる今回は、彼らが家を離れ、大学や新たな冒険へ向かう。荷物をまとめ、列車に乗り、大きな街へ出ていく人物が想像されている。着想と前季からのつながり:Dries Van Noten公式
その人物が持っていく服を考えると、今回の組み合わせには親しみが増す。新しい生活を始めるからといって、持ち物のすべてが一度に入れ替わるわけではない。家族から受け継いだもの、気に入って着続けているもの、背伸びして手に入れたもの。そうした服が、ひとつの身体の上でまだ折り合いを探しているように見える。
これは僕がルックから受け取った人物像でもある。きちんとしたコートとデニム、ニットとケープ、ネクタイと脚を見せるボトム。その取り合わせには、すでに完成した着こなしの規則より、自分に合う着方を試している途中の面白さがある。旅立ちというテーマが、スーツケースや列車のイメージだけでなく、服の組み合わせそのものに現れているように感じた。
浅川マキの曲が置かれた意味も、そこから考えたくなる。歌詞を細かく服に対応させる必要はないけれど、「夜が明けたら」という題名だけでも、今いる時間から次の時間へ移る感覚がある。夜のショーで、これから始まる朝を想像する。服の中にある過去の記憶と、着る人がこれから向かう場所。その間をつなぐ選曲だったと読める。
着想にはヴィクトリア朝の服装や、学ぶことへの関心も含まれていた。The Impressionの取材では、Klausnerが教育や好奇心について語り、ケープや制服を思わせる形との関係が説明されている。時代背景とデザイナーの発言:The Impression
4. 具体的なLOOK
4-1. 色柄を支える服の形
ただ、写真を見ていて僕が惹かれたのは、歴史的な形が今の服と重なったときの見え方だった。長いコートやケープには、普段の街着とは少し違う時間の感覚がある。そこへデニムや細いボーダー、低く薄い印象の靴が加わると、その形を現在の身体でどう着るかが見えてくる。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 1. Source: Dries Van Noten official website(再掲)
Look 1は、その関係がよく分かる。まず肩の線がはっきりしていて、上半身の輪郭が整っている。そこからウエストに向かって布の幅が絞られ、腰より下には長い裾が続く。手をポケットに入れた姿勢も加わり、上半身と下半身の幅の変化が見やすい。濃紺の大きな面積の中に、身体に沿う部分と、身体から離れる部分がある。
ここで効いているのが、前のボタンだ。襟元から裾までを一直線に閉じ切った見え方ではなく、胸のあたりに開きが残り、重なる前身頃の線が腰へつながっていく。ボタンの位置を追うことで、目も自然にその曲線をたどる。装飾を足した場所だけでなく、どこを留め、どこを開けて見せるかが、コートの表情を作っている。
そして、その整った輪郭の上に大きな柄の襟がある。赤を中心に、黄色、緑、青が近い距離で並び、顔の周囲だけ色の密度が上がる。コートの身頃に柄を広げず、首元に集めているので、全身を見たときには濃紺の縦長の形が残る。近づくと柄が楽しく、少し引くとシルエットがきれい。その見え方の切り替わりが好きだった。
小さなブローチもいい。襟のように大きな面積を持たないけれど、無地の胸元に目を止める場所を作っている。左右を同じように飾らず、一か所に添えられていることも、この服を着る人の私物のような親しみにつながる。自分で選んで留めたものに見える余地がある。
下に合わせた淡いブルーのデニムも、このルックには欠かせない。コートの濃い色を、そのまま足元まで引き延ばさず、腰から下に少し明るい色がのぞく。脚まわりには布のゆとりがあり、裾は靴に触れている。上の仕立てに緊張がある分、このデニムの量感が、全身を無理なくつないでいるように見える。
靴は横へ大きく張り出す印象が薄く、地面に近い位置で足を収めている。僕が「今っぽい」と感じたのは、この低い見え方だった。長いコートの足元に軽さがあり、裾からのぞく面積も小さい。Wallpaper*も今季の靴について、ブローグに薄型スニーカーのようなプロポーションを組み合わせた点に触れている。写真で気になった軽快さが、靴自体の設計にも関わることが分かる。フットウェアについて:Wallpaper*
好きな要素がたくさんあるLook 1だが、それぞれが別々に目立ち続けるわけではない。見返すたびに、好きだと思う理由が少しずつ具体的になる。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 10. Source: Dries Van Noten official website
Look 10では、輪郭の作り方が変わる。グレーの長いケープが肩から広がり、その開いた前から、いくつものニットの柄が見える。ケープという形には、最近の装いに通じる新鮮さを感じた。ただ、このルックで目が離れなくなったのは、内側の色柄の重なりだった。
クリーム色のカーディガンには、黒を中心とした細かな幾何学模様がある。そのさらに内側には、細い間隔で色が変わるボーダーが見える。頭には緑とクリーム色のニット帽があり、青い柄の細長い部分が顔の脇に垂れる。使われている柄はひとつではない。それぞれの大きさ、向き、色の面積が違うので、目で順番に追うことができる。
特に好きなのは、カーディガンの前立てに残るクリーム色だ。ボタンの列に沿った無地の帯が、柄同士の間に小さな区切りを作っている。首元から裾まで全部が同じ密度で埋まらず、ところどころに目を休める面がある。色柄の多さを支えているのは、こうした数センチの配置でもあるのだと思う。
ケープの外側はグレーで、内側からは緑の柄がのぞいている。写真のように裾が開いた瞬間には、その裏側の色も全身の一部になる。正面のニットだけに色を集めず、身体の外側にも別の柄が現れる。この内外の切り替わりまで含めて、ひとつの装いが組み立てられている。
膝が見える丈のボトム、寄せた柄のソックス、赤い編み上げの靴も面白い。ケープが身体を大きく包むぶん、膝の周囲に見える肌が、その下にある人の動きを想像させる。赤い靴は、上半身の細かな色の重なりを受け止めながら、足元にひとつ強い色を置く。ケープを着るという大きな選択の中に、ずいぶん細かな調整がある。
このルックは、自分がそのまま着られるかどうかをすぐに判断するより、しばらく眺めていたい。帽子、カーディガン、ボーダー、ケープの裏地。そのどれかを変えるだけでも、全身の雰囲気がかなり変わりそうだ。細部を一つずつ見ているうちに、組み合わせを考える楽しさがこちらにも移ってくる。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 24. Source: Dries Van Noten official website
色の話から、もう一度仕立てに戻りたくなったのがLook 24だった。黄色と黒の花柄のアウターの内側に、銅のような色のダブルブレストジャケットがある。下には、少しくすんだピンクのトラウザーズ。写真を開いた瞬間は花柄の明るさが目に入るが、その後でジャケットの色と形が気になってくる。
このジャケットは、ラペルの面が大きい。身頃と近い色を使いながら、光の返し方が違って見えるので、胸元の斜線がはっきりする。ボタンは同系色で、その位置が強い点として浮かびすぎない。目はラペルをたどって腰へ下り、そこから重なる前身頃と裾の形を追うことになる。
黄色い柄のアウターを重ねても、その中のジャケットが平らに埋もれない。ウエストの収まりと、裾が開く位置によって、内側にもひとつの輪郭がある。外側のアウターには布が広がる余裕があり、その内側には形の整ったジャケットがある。同じ上半身で、異なる布の動き方が重なっている。
ピンクのパンツにも目を向けたい。前に通る折り目が縦の線を作り、太さを持ちながら足元へ落ちていく。上半身に大きな柄があるので、この長い無地の面が全身の見え方を支えている。色を組み合わせる巧さと、パンツの形を選ぶ巧さが、同じところで働いているルックだと思う。
同様の色のジャケットだけなら、ほかのブランドにもあるだろう。似たシルエットの服も探せば見つかるはずだ。それでも、この色のラペル、この腰の収まり、このピンクのパンツ、その外側に重なる花柄までを見ると、僕にはDries Van Notenらしい組み合わせとして入ってくる。個々の要素の珍しさだけで説明するより、隣り合ったときの関係を見た方が、このルックの魅力に近づける。
今回の色について、Klausnerは「Fruitella Pastels」という表現も使っていた。キャンディーを思わせる色の発想が、長いコートや制服的な服の中に差し込まれている。パレットについて:The Impression
Look 24を見ていると、その軽やかな色の発想を受け止めるためにも、ジャケットやパンツの形が必要なのだと感じる。僕はDries Van Notenの柄を見るのが好きだけれど、今回のコレクションでは無地の服の部分まで視線が戻ってくる。それはこのブランドのレビューで、きちんと書いておきたいところだった。
4-2. 刺繍で変わるコートの表情

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 52. Source: Dries Van Noten official website
ケープの話にも、もう一度戻りたい。Look 52では、ブラウンがかったグレーのコートの肩に、短いケープ状の布が重なっている。Look 10のように身体全体を包む長さとは違い、こちらは肩から上腕にかけて横へ広がる。コートの長い縦方向に、短い横方向の量感が加わる形だ。
その肩覆いに、白や赤褐色の模様と、光を返す装飾が並んでいる。編み込みのニットを思わせる図柄が、コートの表面に置かれていることが面白い。Vogueのレビューでも、今季のアウターにはフェアアイルのパターンを糸やビーズの刺繍で表現したものがあると説明されている。装飾の技法について:Vogue
ニットで親しみのある模様が、仕立ての違う服の上に現れる。そこで模様は、柔らかさを連想させながら、光によって細かくきらめくものにもなる。僕が綺麗だと感じたのは、その両方だった。遠くからは肩に沿う柄の帯として見えて、写真を近くで見ると、表面の細かな違いが気になってくる。
肩の下には、無地のコートが長く続く。前には二列のボタンが並び、足元にはピンクのパンツがのぞく。装飾が肩に集まっているから、下の無地の面も広く感じられる。トータルで柄の多いLook 10と比べると、こちらは柄を置く場所の限定によって、コートの形を見せている。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 54. Source: Dries Van Noten official website
Look 54は、同じようにニットを思わせる模様を使いながら、縦の長さがぐっと強くなる。濃紺のコートはすねのあたりまで伸び、前に並ぶボタンがその長さをたどっている。胸から肩へ走る白と赤系の刺繍に目を引かれた後、その下に続く無地の面を見て、あらためて着丈の長さに気づく。
Look 52では、肩覆いそのものに布の厚みと広がりがあった。Look 54では、胸と肩を横切る柄が、長いコートの上半身を視覚的に区切っている。似た印象のモチーフがあっても、形によって身体の見え方が変わる。二つを並べて見ると、柄とシルエットを別々に考えにくいことがよく分かる。
顔の近くに見える白っぽい襟、濃い色のグローブ、裾から少し出るデニム、黄色い柄の靴。それぞれが小さい面積で、長い濃紺のコートの周囲にある。胸の刺繍だけを主役にして写真を見てしまいそうになるが、首と手と足の見せ方まで含めて、この縦長の人物像ができている。
これはかなり好きだ。ただ、自分で着ることを考えると、着丈と身長のバランスは気になる。写真では、コートの長さを受け止めるだけの縦方向の余裕があり、その下に靴もきちんと見える。自分が試すなら、裾がどこまで来るか、肩と腰の位置がどう合うかを確かめたい。長い服は、数センチの違いでも全身の印象が変わりそうだからだ。
それでも、似合うか不安だという感覚が、この服への興味を消すわけではない。むしろ、実物を前にしたらどんな長さなのか、刺繍がどれくらい光を返すのかが気になる。写真の美しさから、自分の身体との関係へ考えが進んでいく。その途中にいられることも、コレクションを見る楽しさだと思う。
4-3. 個人的に惹かれたLOOK
その「試してみたい」が、もっと意外な形で起きたのがLook 65だった。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 65. Source: Dries Van Noten official website
白いシャツの胸元からは、植物の線を思わせる刺繍の糸が長く垂れている。グレーのネクタイには小さな光る装飾が散り、斜めに掛けた黒いバッグのストラップにも艶がある。白と濃い色を中心にまとめた装いの中で、糸の細さと、装飾や革の光り方の違いが見えてくる。
このシャツの好きなところは、刺繍が決まった枠の中に収まって見えないことだ。胸のあたりで形を作る線と、そこから下へ垂れる線がある。シャツの前身頃やネクタイのような、比較的まっすぐな線の近くに、行き先が少し自由な糸がある。正面の写真だけでも、歩いたときにどう動くかを想像してしまう。
ネクタイの光る装飾は小さい。全面が同じ強さで輝く見え方ではなく、ところどころに光を拾う点がある。その細かな点と、シャツから垂れる細い線が近くに置かれている。刺繍もネクタイもそれぞれ気になるのに、遠くから見たときには白いシャツを中心とした装いとして読める。この距離による見え方の変化が好きだった。
膝丈のボトムは、前に布がラップ状に重なり、腰には斜めに走るストラップがある。腰の高い位置から布の量感が生まれ、膝へ向かって続いていく。その立体的な見え方に惹かれた。脚を出す装いでありながら、上半身とのつながりには、トラウザーズのような端正さを感じる。
裾の下には肌が見えて、その先に柄のソックスが寄せられている。靴は細身の編み上げで、足首の周囲にはソックスの柔らかな量感がある。膝から足先までが何もない一本の線にならず、肌、柄、靴の順に見え方が変わる。この足元まで含めて、普段苦手に感じる脚の出し方とは違って見えたのだと思う。
秋冬のコレクションとしては、捲った袖と露出した脚に少し意外さもある。その一方で、手には濃い色のグローブがあり、足元にはソックスがたまっている。暖かそうな部分と、肌の見える部分が一つの身体に同居している。実際の気温に合わせて着るなら調整は必要だろうけれど、スタイリングとしては、この季節感のずれにも惹かれた。
僕が試してみたいのは、多分ボトムだけではない。白いシャツの細い刺繍、光るタイ、腰の重なり、ソックスと靴。その組み合わせの中で脚を出すと、どんな感じになるのかを確かめたい。自分が苦手だと思っていた服でも、周囲のアイテムが変わることで、もう一度考えてみたくなる。Look 65は、そのきっかけになった。
4-4. 難しく感じたLOOK

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 43. Source: Dries Van Noten official website
もちろん、今回の色柄の提案をすべて同じように着たいと思ったわけではない。Look 43やLook 45の首元は、その違いがはっきり出たところだった。付け襟を重ねたように見える大きな色の帯が、顔の下から胸へと続く。ブルーやピンク、黄緑、オレンジ寄りの色が近くに並び、首元の存在感がとても強い。
このあたりのニットには、ジップ付きのポロに深いU字のタンクトップを重ねたように見える、トロンプルイユの工夫もある。重ね着に見えるものをニット自体の作りで表す発想が、色の配置をさらに面白くしている。ニットの構成について:Vogue
色の組み合わせにはDries Van Notenらしさを感じるし、首元にこれだけの面積を使う大胆さも分かる。ただ、僕が着るには少し派手だと思った。顔のすぐ近くに強い色が集まるので、その配色が人物全体の印象に大きく関わる。普段から色を楽しんでいて、この首元を自然に着こなせる人の姿は想像できる。自分に似合うかどうかは、また別に考えたい。

Dries Van Noten Men Autumn–Winter 2026–27, Look 39. Source: Dries Van Noten official website
Look 37から39のあたりには、そこまで惹かれなかった。パッチワークのような色柄や、紫、緑を含んだ組み合わせには、見ていくべき細部がある。それでも、Look 1や24を見たときのように、すぐに写真へ戻りたくなる感覚は起きなかった。
その理由は、まだ上手く言葉にできない。柄が多いから、と片づけるのも違う気がする。Look 10だって、かなり多くの柄を重ねているし、Look 24の花柄にも強く惹かれている。同じような要素が含まれていても、組み合わせの全体によって自分の反応は変わる。今は、その差があったというところまでを残しておきたい。
こうした好き嫌いを含めて見たとき、今回のコレクションは、Julian Klausnerがこのブランドで何を引き継ぎ、どこに自分の関心を置いているのかを考える材料にもなる。
5. Julian Klausnerが受け継ぐもの、加えるもの
創業者のDries Van Notenがクリエイティブ・ディレクターを退いたのは2024年。同年12月に後任へ就いたKlausnerは、2018年からこのメゾンに参加し、ウィメンズのスタジオを率いてきた人物だ。外から完成したブランド像を見ていた人というより、服が作られていく過程を内側で経験してきたデザイナーである。経歴と就任:Dries Van Noten公式バイオグラフィー
だからこそ今回の仕事は、目につきやすい花柄や配色だけで評価したくない。Look 1のコートの前身頃。Look 24のジャケットとトラウザーズ。Look 52と54で変わる装飾の置き方。そうしたところを見ると、色や柄が成立するための形にも、細かな判断がある。僕がこのブランドに期待する豊かさは、その両方があることで生まれている。
今回の成果には、長くこのメゾンで服を作ってきた人々の仕事も含まれている。WWDJAPANの取材では、今季のニットが30年以上在籍するベテランたちとともに作られたことが伝えられていた。創業者の時代から続く技術が、新しいコレクションを支えている。制作チームについて:WWDJAPAN
その蓄積があるから、ニットはセーター一枚の中にとどまらず、襟、帽子、重ね着に見せる構成へ広がっていく。ニットを連想させる柄は、コートの刺繍にも姿を変える。今季を見ていて面白かったのは、同じ関心が複数の服種や技法に行き渡っていたことだ。個々のアイテムを見ているうちに、別のルックとのつながりも見えてくる。
僕には、Klausnerの今季の成果は、そうした技術や形を、着る人の試行錯誤と結びつけて見せたことにあるように思える。背筋の伸びるコートに、自分の履き慣れたデニムを合わせる。端正なシャツの胸元に、光るものを足す。大きなケープの内側で、いくつもの柄を組み合わせる。高度に作られた服でありながら、着る人が関わっていく余地を想像できる。
家から持ってきた服で新しい生活を始めるという物語も、その感覚によく合っている。衣服の記憶は残ったまま、組み合わせや着方が少し変わる。ブランドの側にも、長く積み重なった技術と、新しいディレクターの関心が同時にある。両者を重ねて読むことはできるだろう。ただし、それをKlausner本人の自伝だと決めつけず、今季の服が見せてくれた関係として受け止めたい。
6. 最後に
今回のDries Van Notenで、僕は好きなものを再確認した。長いコート、肩から腰へ流れる線、形のきれいなジャケットとパンツ。その上で、刺繍のあるシャツと膝丈のボトムにも惹かれた。最初から好みに合う服と、見ているうちに好みを少し広げてくれる服が、同じコレクションにあった。
Look 1のコートは、今の自分が好きな理由をいくつも挙げられる。Look 65には、自分でもまだ試していない可能性がある。その二つが並んで記憶に残っていることが、僕にとって今季の魅力をよく表している。
あのコートは、やはりかなり好きだ。そして、あの膝丈のボトムを合わせた装いは、一度着てみたい。写真を見終えたあとにも、その二つの気持ちが残った。
